コロナ禍になり、ここ1年で、本格的にリモートワークに移行された企業も多いと思います。オンラインで円滑にやりとりをするため、Slackやteamsなどのビジネス用のメッセージングアプリの利用を始めた企業もあることでしょう。

リモートワークになって、自宅やカフェにいながらも仕事ができる一方、なかなか社内のコミュニケーションがうまくいかないと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここではそんな悩みを解決するため、リアルタイムで作業内容や進捗を共有していく「分報」という取り組みをご紹介したいと思います。

今回は、前職の建築設計事務所でSlackは利用しつつも、あまりうまく活用できていないと感じていた私が、フリーランチで初めて分報を体験し、実感したメリットについて一部ご紹介したいと思います。

分報とは?

「分報」は「ふんほう」と読み、「times」ということもあります。社内で利用しているSlackやteamsなどのビジネス用のメッセージングアプリで、今取り組んでいることや困っていることを投稿し、共有することを「分報」といいます。

「分報」とは、文字通り「日報」の分単位バージョンになります。日報では1日の終わりに自分がやった作業の報告や引継ぎを記録しますが、分報ではそれを1日単位ではなく、リアルタイムで自分の作業内容を社内のメッセージングアプリやチャットツールで投稿していきます。

日報が社内版交換日記だとしたら、分報は社内版Twitterという感じです。自分の好きなタイミングにTwitter感覚で、今している作業内容、作業しながら感じたことや疑問点を投稿していきます。

スラックで作業内容などをつぶやいている時の画面
Twitter感覚でつぶやいている分報の画面

実際の私の分報の一部です。このように今やっている作業とか、感じていることを投稿していきます。

フリーランチで分報を導入した背景

フリーランチではSlackの導入は2016年末、分報を使い始めたのは2019年からとのことです。分報導入のきっかけを聞いたところ、社内のスタッフが増えたことで、共有したつもりの内容を伝え忘れていたり、打ち合わせで外出する際の作業の引継ぎがうまくいかなくなったことが理由だったそうです。

もともとフリーランチではSlackを利用していたので、チャットツールで行われる分報という取り組みを試しに導入したとのことです。私も前職の建築設計事務所ではSlackを利用していました。まだその時はコロナ以前だったので、上司が出張中の時にやりとりをするなどサブ的な使い方をしており、当時はSlackを持て余しているように感じていました。

実際私も分報を活用し始め、効果やメリットを実感しました。具体例とあわせて、その内容をご紹介したいと思います。ちなみに現在フリーランチでは、スタッフ全員がフルリモートで仕事をしています。

分報の実際の書き方・活用事例とメリット5選

ビジネスシーンで「分報」が有効であるということを知っていても、実際の活用事例を見ないと、書き方が分からなかったり、なかなかうまく使いこなせないかと思います。

今回は実際のフリーランチ社内での分報の書き方や事例をお見せしつつ、その効果とメリットをお伝えしたいと思います。

困ったときに自然と上司や先輩から教えて貰える

誰かに聞きたいけど、これってわざわざ聞くほどのものでもないかなと迷うことはありませんか?Slackを利用していたとしても、誰かに質問をするというのは案外ハードルが高いものです。さらに相手が上司や先輩となると、内容だけでなく、文面を整え始めたりして、質問するまでに時間がかかってしまうことが多いと思います。

そんな時でもSlackでちょっとつまずいているところや疑問を抱いているところをつぶやくと、その内容を見て上司や先輩がリアクションをしてくれます。

スラックで部下がつぶやいた疑問に上司が答えている時の画面
疑問をつぶやいている分報の画面

これは私がリサーチ業務の際、知らない単語が沢山でてきて困惑していることをつぶやいたものです。こんな風にわざわざ質問するほどでもないし、調べれば分かる内容でも、つぶやいた内容を見てもらえると、教えてもらえることがあります。

特にリモートワークだと、つまづいていたとしても、すぐに相談できる相手が側におらず、自分で問題を抱えがちになりますが、「質問をする」のではなく「つぶやく」というだけで、問題が解決する場合があります。

スタッフ間で知識の共有ができる

社内で知識や学びを共有することの重要性は、誰しも理解していると思います。しかし、実際は重要性は感じつつも、なかなかうまくいかないという会社は多いのではないでしょうか。リモートワークだと、そばに自分以外のスタッフがいるわけではないので、スタッフ間でそうしたやり取りをすることはさらに難しくなります。

しかし分報を利用すると、そうしたスタッフ間での知識や学びを共有することができます。例えば下のようなやり取りがその一例です。

スタッフ間で知識を共有している時のスラックの画面
スタッフ間でやりとりをしている分報の画面

これは私がリスティング広告の設定方法を、社内共有のマニュアルとしてまとめていた時につぶやいたものです。例えば、社内で「この業務はあのスタッフしか知らない」という場合はないでしょうか。

私が知識やスキルの属人化を防ぐために、社内マニュアルを作ることは重要だとつぶやいたところ、社内で知識やスキルを共有することを「ナレッジマネジメント」と呼ぶということをスタッフの春口さんに教えて貰いました。

ひとりでこの作業をしていたら、「ナレッジマネジメント」という言葉を知らずにその作業を終えることとなりましたが、分報を利用してちょっとした気付きをつぶやくことで、スタッフ間で知識や学びを共有することができます。

作業工程・作業時間の可視化ができる

自分の進めている作業が、当初思っていたよりも時間がかかって焦ってしまうということは、誰しも経験があると思います。社内で一緒に仕事をしていれば、なんとなくの空気感でスタッフの状況を感じ取ることができますが、リモートワークだとその空気感を伝えたり、感じ取ることが難しくなります。

そうした空気感を共有する時にも分報は活躍します。下がその一例です。

作業進度や作業でのつまずきをつぶやいた時のスラックの画面
現状の作業についてつぶやいている分報の画面

これは私が業務の中で参考事例をリサーチしていた時につぶやいたものです。単純に作業に時間がかかっていることだけでなく、どこでつまずいているのか、何に困っているかをつぶやくだけで作業工程や作業時間を可視化することができます。

他にもこんな例があります。

作業時間の見込みをつぶやいて共有しているスラックの画面
タスクが多かった時の分報の画面

こちらも作業時間を可視化した一例です。この作業にこれぐらい時間がかかったとわざわざ言わなくても、つぶやいた投稿時間やコメントを見るだけで作業時間や分量を可視化することができます。こうすることでスタッフのタスクの負担がどれぐらいかを把握することができ、作業の割り振りを見直すことができます。

日報やタスクを見える化するツールとしても機能する

休日明けの業務で、「あれ、今日自分は何から手をつければいいのだろう?」となったり、業務の引継ぎや整理ができていないときはありませんか?

分報ではその瞬間のつぶやきをするだけでなく、その日の業務の終わりに残務タスクやTODOをまとめてつぶやくことで、日報として機能させることもできます。次回の出勤日に前回まとめたタスクをSlack上で確認すれば、スムーズにその日の作業を始めることができます。

分報を日報のように活用した時のスラックの画面
日報代わりに活用している分報の画面

このように次回出勤日に行う予定のタスクをまとめておくことができます。人によってはノートや自分のパソコン上にTODOをまとめることもあるかもしれませんが、分報を利用することで上司や他のスタッフにもタスクが可視化されます。

実際に私も大原さんの分報をみて、「今大原さんはこんな業務をしているのか」と把握することができました。特にアルバイトスタッフなどは勤務時間や曜日が不規則で、社内の情報を網羅的に共有することが難しくなりますが、このように社内のスタッフであれば出勤時間の量に関わらず、社内全体の業務内容を把握することができます。

業務以外のちょっとしたコミュニケーションができる

リモートワークになり、出勤時間がなくなって楽になった反面、自宅で作業する日が続くと、その日1日誰ともコミュニケーションを取らなかったという場合がありませんか?リモートで効率的に仕事ができるようになった一方で、ちょっとした雑談をする時間やスキマ時間がなくなったことで、気分の落ち込みを感じる時があります。

分報を利用すれば、業務以外のコミュニケーションもすることができます。

スタッフが業務以外のコミュニケーションをとるスラックの画面
スタンプでリアクションを受けた分報の画面

これは私が昼休みの時間に、近くのカレー屋さんでテイクアウトしたカレーの感想をつぶやいたものです。社内で仕事をしている時は、隣のスタッフに「このカレー超おいしい!」と伝えることができますが、リモートだとなかなかそうした業務以外のコミュニケーションを取ることが難しいです。

分報であれば、社内版Twitterとして、気軽に業務以外のことをつぶやくことができます。もしつぶやきを他のスタッフが見ていれば、そうした雑談にも反応をもらうことができます。実際に私のこのつぶやきも、スタンプで反応をもらうことができました。Twitterのいいねボタンのように、Slackのスタンプ機能を使えば、より気軽にリアクションをすることができます。

ちょっとしたやりとりではありますが、業務以外のコミュニケーションがあるからこそ、むしろ業務への意欲が沸いたり、業務を円滑に進めることができます。

分報を活用して、業務が効率化することを実感

実際に分報を活用して、私はとても仕事がやりやすいと感じました。私はまだフリーランチで働き始めたばかりなので、業務内容で分からないことが多かったり、つまずく場合が多いです。しかし、リモートワークなので、そばにすぐ聞けるスタッフがいません。

分報を利用することで、今自分がしている作業や疑問点をぽんぽんつぶやくことができ、その度に周りのスタッフから助け舟を出してもらうことができ、分報のメリットを実感しています。

リモートワークでなくとも、社内で逐一作業していることの報告や悩みを伝えることはハードルが高く、なかなかできない場合が多いと思います。リモートワークであってもなくても、分報を導入した方が社内のタスクを可視化し、コミュニケーションを円滑にし、業務の効率化に繋がるように感じました。

分報を活用するときの運用ルール・工夫

分報は便利ではありますが、いきなり導入してもなかなか誰もつぶやかないという事態が想定されます。また、ある程度ルールを決めておかないと、社内でのやり取りが煩雑になってしまうという危険性もあります。

いくつかフリーランチで実践している、分報を活用する上で工夫しているポイントをご紹介します。

スタンプを活用する

Twitterは利用しているけど、基本は読む専門で、誰かのつぶやきにリアクションをするのはハードルが高いと感じている人は多いでしょう。分報も同じように、ただ個人がそれぞれつぶやているというだけでは、コミュニケーションを取ることができないので、リアクションのハードルを低くすることが重要です。

フリーランチではSlackのデフォルトのスタンプだけでなく、いくつかスタンプの素材をダウンロードし、カスタマイズしたスタンプを活用しています。カスタマイズで追加した文字のスタンプも活用することで、より相手のリアクションの内容を把握することができます。

スラックの分報で使用しているスタンプ
カスタマイズした分報のスタンプ

実際にフリーランチで使用しているスタンプです。このように絵文字だけでなく、文字のスタンプを活用することでリアクションへのハードルを下げ、スタッフ間でリアクションしやすいように工夫をしています。

このスタンプの活用は、TwitterというよりはLINEのスタンプ機能に近いと思います。LINEでは会話の中にスタンプを適宜挟みこむことで、文字だけでは得られないコミュニケーションのスムーズさやカジュアルさがありますが、それと同じような感じです。

分報はSlack上の「個室」として運用する

ここまでずっと分報のメリットとして、コミュニケーションのハードルを下げることを挙げてきましたが、原則として、分報は「自分の作業をつぶやく」「自分のタスクを整理・見える化」するためのものと理解する必要があります。

スラックでのスタッフごとの個人用分報チャンネル
個人用の分報チャンネル

フリーランチでは上記のように、スタッフごとに個人用の分報チャンネルを作り、基本的にその中でつぶやくルールとなっています。自分の分報チャンネルを自分に与えられた「個室」と捉えることで、自由に安心してつぶやくことができ、更に他のスタッフのつぶやきと錯綜せずに運用できます。

この運用方法は、クラウドインフラに関する設計、ソフトウェア開発に関するコンサルティングを行う株式会社クラフトマンソフトウェアの野澤秀仁さんのブログの記事「Slackで簡単に「日報」ならぬ「分報」をチームで実現する3ステップ 〜Problemが10分で解決するチャットを作ろう〜」で紹介されているものを参考にしています。

相手から確実に返信が欲しい場合は?

余裕があるときは、自分以外のスタッフの分報も見ますが、他のスタッフの分報を逐一チェックするとなると、膨大なつぶやきを見る必要があります。基本的に分報は自分の部屋のような扱いとして、見られることはあるけど、必ずしも他のスタッフが見ているとは限らないということを念頭に置いてください。

しかし、実際の業務では明確に相手からの返信(リプライ)が必要となることがあります。例えば、数時間以内にクライアントに連絡したいので文面を確認してほしい時や〆切について確認してほしい場合などです。

相手の返信が確実に欲しい時は、自分の分報ではなく、相手の分報にリプライをつけて(@付き)書き込むルールにすることをおすすめします。@をつけた書き込みは、相手に通知が行くため見逃されにくくなります。イメージとしては相手の部屋に行って連絡する感じです。

このように「見ていなくても問題にならないつぶやき」と「明確に相手に反応や返事を貰う必要がある連絡」とを使い分けることで、業務を円滑に進めることができます。

Slackをより活用したい場合、分報導入をおすすめします

分報を利用すれば、社内のコミュニケーションを円滑にし、業務の効率化を図ることもできるので、Slackやteamsなどのメッセージングアプリをまだ利用していない、利用しているけどうまく活用できていないと感じていれば、分報導入をおすすめします。

分報を活用した場合のメリットは以下の通りです。

  • 自然と上司、先輩から教えて貰える環境ができ、スタッフの学びの機会が生まれる
  • スタッフ間で知識の共有ができ、スタッフの成長に繋がる
  • 作業工程や作業時間が可視化され、業務の効率化を図れる
  • 分報を日報としても利用することで、作業の引継ぎを円滑にできる
  • 業務以外のちょっとしたコミュニケーションができ、社内の雰囲気改善に役立つ

あなたの会社で分報の導入を検討している場合、この記事を社内で共有する資料としてぜひご活用下さい。

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執筆者のプロフィール


高橋 真理奈(たかはし・まりな)| 株式会社フリーランチのコンサルタント。前職ではアトリエ系の建築設計事務所に勤務。現在は建築設計事務所を営みながら、複業としてフリーランチに参画。大手のPM/CM会社のマーケティング改善や小規模の建築設計事務所の経営・マーケティング改善を担当中。